PSCとは…

「PSC」とは、Port State Control(ポートステートコントロール:外国船舶の監督)の略で、国際条約1において寄港国政府職員が実施することを認められている入港外国船舶に対する立入検査(船舶の構造・安全設備、海洋汚染防止設備、船員の資格や生活労働環境などが国際条約の要件に適合しているかを確認する検査)のことです。

PSCの様子(豪州海事庁ウェブサイトより)

PSCはなぜ必要か

船舶の安全、海洋環境の保護、船員の生活労働環境の要件については、国連の専門機関である国際海事機関(IMO)や国際労働機関(ILO)において採択された国際条約で定められており、国際条約の締約国政府は自国に登録された船舶をこれらの国際条約の規定に適合させる義務があります。締約国政府は条約の定めに従って検査等を実施し要件に適合していること確認した上で国際条約証書等を船舶に発給します。

全ての締約国政府が旗国政府として自国籍船に対する検査を十分に行い、船主や運航者もこれらに従っていれば、条約締約国に登録された船舶は条約の規定に適合しているはずです。ところが、現実には、船舶の条約要件不適合に起因すると考えられる大きな海難事故や海洋汚染事故が後を絶たない状況です。海上の安全確保、海洋環境保護保全、船員の生活・労働環境保護を推進するためには、これらの条約不適合船(サブスタンダード船)の廃絶が喫緊の課題となっています。

このためには、まず締約国政府が自国の海事行政能力の強化を図らなければならないのは当然ですが、一朝一夕には進まないのが現状です。このため、締約国政府の自国籍船に対する監督を補完する第二の方策として、PSCが重要視されています。

サブスタンダード船の実例:船側外板に大きな亀裂が入った船舶(Tokyo MOU databaseより)

PSCの手順

PSCの手順については、IMOが採択した総会決議(最新のものは第33回総会(2023年)にて採択されたA.1185(33)(2023年のPSCの手順に関する総会決議)に詳細が記載されています。概略は次のとおりです。

  • 初期検査(Initial inspection)
    船体の外観、船内の状況を観察しながら乗船し、船長から積み荷や航海の状況などを聴取します。あわせて証書、記録類、船員の資格証明書等国際条約で要求される書類をチェックし、船内を巡視します。
  • 詳細検査(Detailed inspection)
    有効な証書類を保持していない場合又は証書類のチェック若しくは船内巡視の結果、①船舶の構造設備の状態が証書の記載や条約の要件に適合していない、②船長又は担当船員が機器の操作や非常の際の対応措置等に習熟していない、③乗組み船員が条約に定められた資格要件を満たしていない、④船員に必要な休息時間が与えられていない、若しくは⑤船内生活労働環境が条約の要件を満たしていないとPSC検査官が判断した場合には、詳細な検査が実施されます。
    なお、初期検査の結果、特段問題点が確認されなかった場合には、PSCは初期検査のみで終了します。
  • 航行差止め(拘留:Detention)
    詳細検査の結果、船舶の構造設備、船員の資格、船内の生活労働環境に関し条約の規定を満たさない重大な不具合が認められ、安全、海洋環境又は船員の労働安全衛生に重大な危険があると判断された場合には、当該危険が除去されるまで船舶の出航が差し止められます。この場合、PSC実施当局は、速やかに出航を差し止めた船舶の旗国政府及び認定検査機関に航行差止めの事実を通報します。
    東京MOUの英文ウェブサイトでは、その月に航行差止め処分を受けた船舶の一覧表を公表しています。  
    なお、航行差止め処分を受けた船舶については、その根拠となった重大な不具合を是正するまで出航は認められませんが、その港で修理などの是正措置を講じることが不可能とPSC当局が認めた場合には、最低限の安全を確保した上で修理港までの出航が認められる場合があります。
  • 航行差止め処分の解除(Release of detention)
    航行差止め処分の根拠となった不具合が是正されたことをPSC検査官が確認し次第、出航は認められ、その旨が旗国政府及び認定検査機関に通報されます。
  • 検査報告書(Inspection report)
    PSCの検査結果報告書は、不具合や航行差止め処分の有無にかかわらず、検査が行われた場合には必ず作成されます。検査報告書は、船舶が受有している条約証書の詳細、検査の場所等一般事項を記載するForm Aと不具合が確認された場合に当該不具合の種類、講じた措置などを記載するForm Bとで構成されています。検査終了後、PSC検査官は検査報告書の内容を船長に説明し、自ら署名するとともに船長にも署名を求めます。
    検査結果については、各当局から東京MOUの検査情報センター(APCIS)に報告され、インターネット上にて公開しています